この記事を書いているのは、元公立中学校教師のスーさんこと私です。4年間教壇に立ち、28歳のときに人材系ベンチャー企業に転職しました。現在はそのベンチャーでマーケティング責任者・新規事業責任者を兼任しています。
「先生が転職?」と驚かれることが多いのですが、転職してから5年以上が経ち、今では「あのとき決断してよかった」と心から思っています。この記事では、転職を決めるまでの葛藤、実際の転職活動の流れ、年収の変化、そして後悔の有無まで、できる限り赤裸々にお伝えしようと思います。
教師になったきっかけ――「人を育てたい」という純粋な気持ちで
私が教師を目指したのは大学2年生のときです。教育学部に進んだ理由は、正直に言えば「なんとなく人と関わる仕事をしたかった」という程度のものでした。しかし教育実習で中学2年生のクラスを担当したとき、一人の男の子が変わっていくのを目の当たりにして、本気で教師になりたいと思うようになりました。
その子は数学が極端に苦手で、授業中もずっとうつむいていました。私が放課後に個別で教えるようになって1か月ほど経ったある日、彼がテストで初めて70点を超えたんです。「先生、見て!」と走ってきた顔が今でも忘れられません。あの瞬間の感動が、私を教師にした原体験です。
卒業後はそのまま採用試験を受け、地元の公立中学校に社会科の教師として赴任しました。
4年間の教師生活――やりがいと消耗の繰り返し
教師の仕事は、想像以上にやりがいがありました。生徒との関係、授業の準備、文化祭や体育祭の準備――すべてが「生きている」感覚でした。特に担任を持ったときのクラス経営は、まるで小さな組織のリーダーのような感覚で、それなりに楽しかった。
ただ、2年目に入ると、消耗していく自分に気づき始めました。
朝7時には出勤し、帰宅は夜10時を超えることが当たり前。部活の顧問(私はバスケットボール部でした)は土日も練習試合があり、休日らしい休日は月に1度あるかどうか。それでも「生徒のために」という気持ちで乗り越えていたのですが、3年目の冬にはっきりとした限界を感じました。
ある日の職員会議のことです。私が提案した「生徒の進路指導を個別により充実させたい」という案が、「前例がないから」という理由だけで却下されました。30分の議論の末、誰も「生徒のためにどうか」という視点で話さない。「前例」「慣習」「決まりだから」という言葉が飛び交うだけ。そのとき初めて、「この組織では何も変えられない」と思ったんです。
ポイント
教師からの転職を考え始めるきっかけは「疲弊」だけでなく、「このままでは何も変えられない」という閉塞感から来ることが多い。スーさんの場合も、体力的な限界よりも「組織への失望」が転職の引き金でした。
転職を意識したきっかけ――大学の同期との再会
転職を真剣に考え始めたのは、3年目の春です。大学の同期と久しぶりに飲んだとき、民間企業に就職した友人たちの話を聞きました。失敗を繰り返しながら新しいサービスを作っている人、マネージャーに昇格して部下を持ち始めた人、海外のプロジェクトに携わっている人。みんながそれぞれのフィールドで「変化」を経験していました。
一方、私の4年間は?授業の質は上がったと思う。生徒との関係も悪くない。でも、何かを「変えた」という感覚が薄かった。組織として変わっていないし、私自身のスキルセットも、教壇に立つこと以外でどう使えるのか見えてこなかった。
その夜、帰り道に「このまま30代、40代になってどうなるんだろう」と初めて真剣に考えました。
転職活動開始――教師の強みが意外なところで刺さった
転職活動を始めたのは4年目の夏です。在職中のまま活動しました。まずは転職エージェントに登録し、キャリア相談を受けました。
エージェントの担当者に「教師の方が民間に転職する場合、どんな職種が向いていますか?」と聞いたとき、「人材業界か教育系の事業会社がいちばん親和性が高いですよ」と言われました。正直、そのときは少しがっかりしました。「教師→教育関係」という、いかにも当たり前の答えだったから。
でも実際に面接を受けてみると、教師経験が意外なほど評価されました。特に驚いたのが、人材系ベンチャーの採用面接でのことです。面接官に「教師として4年間で培った最大のスキルは何だと思いますか?」と聞かれ、私はこう答えました。
「30人以上の多様なバックグラウンドを持つ人間を、1つのゴールに向かって動かす経験だと思います。学力も家庭環境も性格もバラバラな生徒たちに、それぞれ異なるアプローチで向き合い、クラスとして1つのことを成し遂げる。これはまさに組織マネジメントだと思っています」
面接官は少し沈黙した後、「それ、うちが求めていることとまったく同じです」と言いました。その会社が私を採用してくれたのは、業界経験でも資格でもなく、「人を動かす経験値」でした。
採用担当者スーさんのコメント
今、採用側に立って思うのですが、教師経験者には「場を読む力」「言語化の力」「継続的なPDCAを回す習慣」がある人が多い。これは社会人として基礎中の基礎ですが、意外と鍛えられていない人が多い。教師を辞めて転職を考えている方は、自分のスキルを過小評価しないでください。
転職活動の期間と結果
転職活動の期間は約3か月でした。エージェント2社に登録し、応募した企業は計8社。書類選考通過は5社、最終面接まで進んだのは3社、内定をもらったのは2社でした。
最終的に選んだのは人材系ベンチャー企業です。もう1社は大手教育企業で、年収も安定していたのですが、「安定」を取りに行くために転職するわけではないと思い、成長中のベンチャーを選びました。
年収はどう変わったか
教師4年目の年収は約430万円でした(地方公務員・教師としては標準的な水準です)。転職直後の人材ベンチャーでの年収は380万円。つまり、転職時点では約50万円の年収ダウンです。
正直、これは痛かった。でも「最初は下がっても成長できる環境に賭ける」という気持ちで決断しました。
結果的に、1年後には450万円、3年後には620万円、現在(転職5年目)は850万円を超えています。もちろん、すべての人が同じようにいくわけではないし、私が運良くベンチャーの成長フェーズに乗れたという運の要素もあります。ただ、「長期的な成長」に賭けた判断は間違っていなかったと思っています。
ポイント
転職時の年収は「今の水準」ではなく「3〜5年後の成長」で考えることが重要。特にベンチャー企業への転職では、入社時は下がっても、役割が広がるにつれて大幅な上昇が見込める場合がある。ただしこれはリスクでもあるため、会社の財務状況・成長速度の確認は必須。
後悔はしているか?
「教師を辞めたことを後悔していますか?」と聞かれることがよくあります。
正直に言います。後悔はゼロではありません。卒業式の日に教え子から手紙をもらう経験は、もうできない。あの感動は、どんな仕事でも代わりにはなりません。教師という仕事には、それだけのかけがえのないものがあります。
ただ、「転職の決断」を後悔しているかというと、答えはNOです。民間に出たことで視野が広がり、自分のスキルが磨かれ、以前では想像もできなかった仕事をするようになりました。転職して知ったことのほうが、知らなかったことへの後悔よりも遥かに大きい。
今の私が転職前の自分に声をかけるとしたら、「行け。怖いのは当たり前だから」と言います。
教師からの転職を考えている方へ
最後に、今まさに転職を考えている教師の方に伝えたいことがあります。
教師は「特殊な職業」だと思われがちですが、その経験の中には民間で通用するスキルが確実に詰まっています。コミュニケーション能力、ファシリテーション能力、数十人の人間をまとめる組織力、言葉で人を動かす力。これらは採用市場でも十分に評価されます。
転職活動を始めることは、「辞める決断」ではありません。「自分の可能性を確かめる行動」です。まずはエージェントに相談してみてください。話を聞くだけでも、自分の市場価値が見えてきます。
このサイト「転職の教科書」では、私スーさんの経験をもとに、教師からの転職を含む様々な転職情報を発信しています。ぜひ他の記事も参考にしてみてください。