新卒で教師になって、4年で辞めた。今から振り返ると、あの決断は自分の人生の中でいちばん怖くて、いちばん正直な選択だったと思う。
この記事は、同じように「教師を辞めたい」と思いながら、踏み出せないでいる人に向けて書いています。「辞めていい」と背中を押したいわけではありません。ただ、私が感じた葛藤と、辞めた後の現実を、できるだけ正直に伝えたい。それだけです。
教師になった日の気持ちを忘れたくない
最初に言っておきたいのは、教師を辞めたことを「失敗」だとは思っていないし、教師という仕事を「間違っていた」とも思っていないということです。
私が初めて担任を持ったのは、新卒2年目の春でした。中学2年生のクラスで、33人の生徒を受け持ちました。4月の最初のホームルームで、33人の顔が一斉にこちらを見た瞬間の感覚は、今でも忘れられない。怖かった。でも同時に、「この子たちのために、できることを全部やろう」という気持ちが自然と湧いてきた。
あの感覚は本物でした。偽りのないやりがいだったと思う。だから、辞めた今でも、教師という仕事に携わっている人たちを心から尊敬しています。
「辞めたい」と初めて思った夜
2年目の秋のことです。ある生徒が不登校になりかけていました。その子は繊細で、クラスの中で少し浮いていた。私は毎朝その子に声をかけ、放課後も話を聞いていました。
そのことを学年主任に話したとき、返ってきた言葉が忘れられません。「あまり関わりすぎると親が過度に期待してクレームに発展するから、程々にしておきなさい」。
私はその日の夜、帰り道で立ち止まりました。「程々にする」って何だ?子どもが助けを求めているのに、組織防衛のために「程々にする」のか。おかしい。絶対におかしい。でも、それがこの組織の「常識」なのか……。
そのとき初めて、「この仕事を続けていいのかな」という言葉が頭に浮かびました。
ポイント
「辞めたい」という感情が湧いたとき、それはサインです。疲れているだけなのか、根本的に組織や仕事の構造と自分の価値観がズレているのか、見極めることが大切。感情に蓋をして「教師なんだから頑張らなきゃ」と思い続けることが、いちばん危険なパターン。
3年目:消耗と使命感のあいだで
3年目に入ると、「辞めたい」という気持ちは常に心のどこかにありました。でも同時に、「でも、この子たちはどうなる?」という気持ちも消えなかった。
部活の顧問として土日もほぼ休みなく学校へ行き、授業準備は深夜まで。平均の睡眠時間は4〜5時間。でも、それが「普通」だと思っていた。周りの先生も同じように働いていたから。
3年目の2学期、私は初めて体調を崩して3日間学校を休みました。熱が38度を超えて、それでも「休んだら誰が授業をするんだ」と罪悪感を感じていた。その罪悪感が今思うと、いちばん怖いことでした。休む権利があるはずなのに、休むことに罪悪感を感じてしまう。そういう組織にいると、自分の感覚が正常かどうかわからなくなってくる。
転職を「決意」した瞬間
4年目の春、職員会議でのことです。
私はその半年前から、「生徒の進路指導を個別により充実させたい」という提案を温めていました。具体的には、進路相談の時間を現行の年2回から4回に増やし、外部の進路カウンセラーを招く試みを提案したかった。他の学校で成功事例もあり、データもそろえていました。
職員会議でその案を出したとき、最初の反応は「前例がない」でした。次の反応も「前例がない」。30分の議論の末、「今年度はとりあえず様子を見ましょう」という結論で終わりました。
帰り道、私は「ああ、もう無理だ」と思いました。怒りではありませんでした。怒りを通り越した、静かな諦め。「ここでは何も変えられない。変えようとしても変えられない。ならば、別の場所で、別の形で、人のために何かをしよう」。
あの瞬間が、私の転職の起点です。
採用担当者スーさんのコメント
転職の決断を「逃げ」だと思っている教師の方が多いです。でも私は今、採用側として500人以上の転職者を見てきた立場から言えます。「変えたいと思って動いた人」は、組織にとっても社会にとっても価値があります。「辞めたい」が「変えたい」から来ているなら、それは逃げではない。
辞めることを誰に伝えたか
転職活動は在職中に進め、内定が出てから管理職に報告しました。最初に話したのは、3年間お世話になった学年主任の先生。「もったいない」「もう少し続けてみたら」という言葉をいただきましたが、「私はここでは成長できないと感じています。それは先生方のせいでも、学校のせいでもなく、私自身が変化を求めているからです」と伝えました。
保護者には伝えることができず、学年末に担任が変わる形で引き継ぎになりました。それだけが今でも心残りです。特に1年間担任したクラスの子どもたちに、ちゃんと挨拶できなかったことは申し訳なかったと思っています。
辞めた後に気づいたこと
転職してから気づいたことがいくつかあります。
まず、「仕事で疲れる」と「仕事で消耗する」は違うということ。人材ベンチャーの仕事は忙しい。でも、疲れても「明日も続けたい」と思える。教師時代の疲れは「明日が来るのが怖い」という消耗感でした。この違いは、転職してから初めてわかりました。
次に、「変化できる組織」の心地よさ。入社から半年で新しい施策を立ち上げ、それが数字に出た。上司から「これ面白い、やってみよう」という言葉が返ってくる速度。そのスピード感を体感したとき、教師時代に感じていた閉塞感が「環境のせいだった」とはっきりわかりました。
そして、教師での経験が意外なほど活きているということ。30人以上の多様な生徒たちと向き合った経験は、採用面接でも組織マネジメントでも確実に役立っています。「人を見る目」と「言葉で人を動かす力」は、教師時代に鍛えられたものです。
ポイント
教師から転職した後、「教師のスキルが役に立たなくなる」という恐れを持っている方が多いが、実際は逆。コミュニケーション力・ファシリテーション力・多様な人間への理解力は、どの職場でも高く評価される。自分の経験を「教師でしか使えないスキル」と思い込まないこと。
後悔はしていない理由
「後悔はありますか?」とよく聞かれます。
正直に言います。「あの瞬間あの生徒にもっと関われたかもしれない」という後悔は、今でも消えません。卒業式に参列できなかった年があったことも、心に残っています。教師にしかできない経験があったことは、確かです。
でも、「辞めたことへの後悔」はゼロです。
今の私は、以前の自分よりも視野が広い。スキルが幅広い。そして何より、「変えたいと思ったことを、動けば変えられる」という感覚の中で仕事をしています。あの閉塞感の中で「前例がないから」という言葉に諦めていた自分とは別の人間になれた気がする。
後悔しない理由は、「辞めて正解だった」からではありません。「辞めると決めた自分を信じたから」です。あの決断は、私が自分の人生に正直だった証拠だと、今でもそう思っています。
今、「辞めたい」と思っている教師の方へ
もし今、「辞めたい」という気持ちを抱えているなら、まず自分に正直になってください。
「一時的な疲れ」なのか、「根本的な違和感」なのか。この区別が大切です。一時的な疲れなら、休暇をとること、相談できる同僚を探すことが先決かもしれない。でも、「変えたいのに変えられない」「ここでは成長できない気がする」「自分の価値観と組織がズレている」という根本的な感覚なら、転職を考える段階に来ているかもしれません。
転職活動を始めることは、「辞める決断」ではありません。「自分の選択肢を広げる行動」です。在職中にエージェントに相談するだけでも、市場価値が見えてきます。それを知るだけで、「続ける選択」も「辞める選択」も、より自信を持って選べるようになります。
私はあの夜、「辞める」と決意したわけではありませんでした。「自分の人生を自分で選ぶ」と決意しただけです。その結果が転職でしたが、あなたの結論は違うかもしれない。どちらでも構わない。ただ、自分の感覚から目を逸らさないでほしいと思います。
転職の教科書では、教師からの転職体験談や転職活動の進め方を発信しています。他の記事もぜひ参考にしてみてください。